燕岳・常念岳・前常念を1泊2日で歩く|終わりの見えない三股下山で、姿勢治療家®が見た身体と心
前常念を通過したのは、朝9時。10時半を過ぎ、樹林帯の下りが続く頃、妻の千春さんが少し強く疲れを感じ始めました。
下りは元々得意な妻です。それでも今回は、あとどれくらいで終わるのか分からないことが、一番つらかったようです。
こんにちは。
姿勢治療家®の仲野孝明です。
今回の山行では、歩き続ける力を考えるうえで、脚力だけでなく、休憩や補給、残りの行程の見通しにも目を向ける大切さを感じました。
僕にとって山は、景色を楽しむ場所であると同時に、自分の身体を使って「身体の使い方」を確かめる実践の場でもあります。
今回は、中房温泉から燕岳、大天荘、常念岳、前常念を経て三股へ下った1泊2日の山行から、「身体の姿勢」と「心の姿勢」について考えてみます。
目次
中房温泉から燕岳・大天荘へ。1日目は次の目標が見えていた
今回、妻からの希望は「2泊3日より、1泊2日がいい」というものでした。
大天荘は早い時期から予約していましたが、中房温泉方面の土砂崩れや不安定な天候もあり、直前の予報が悪ければキャンセルするつもりでした。
天気予報を確認し、なんとか歩けそうだと判断して出発しました。
今回の行程は、次のとおりです。
1日目:中房温泉 → 燕岳 → 大天荘(泊)
2日目:大天荘 → 常念小屋 → 常念岳 → 前常念 → 三股
燕岳では素晴らしい天気に恵まれました。
中房温泉から大天荘までは、8月に一度歩いていたルートです。初めてではないという安心感もありました。
今回は天気が良かったため、以前歩いた行程に、燕岳山頂への往復を加えました。







1泊2日で、燕岳、常念岳、前常念の3つのピークをつなぐ行程です。
妻は、2023年4月から毎週水曜日、6kmの「小走り飛脚」を続けています。日常的に身体を動かしており、今回の山行にも、それまでの運動と登山の積み重ねがありました。
1日目は身体をしっかり使いながらも、山頂や山小屋など、次に目指す場所が分かりやすい行程でした。
それに対して2日目の後半は、次の山小屋がないまま、三股まで下り続けます。
一度歩いたことのある初日の道と、初めて歩く長い下山。この経験の違いも、今回を振り返るうえで大切な点でした。

最後まで悩んだ2日目の下山ルート
今回は、同じ道を戻るピストンは考えていませんでした。
帰路の候補は、次の4つです。
- 常念岳から一ノ沢へ下りる
- 蝶ヶ岳まで進み、長塀尾根から徳沢、河童橋へ向かう
- 蝶槍から横尾へ下り、河童橋へ向かう
- 常念岳から前常念を経て、三股へ下りる
地図を見ると、常念岳から前常念を経て三股へ下りるルートは、それほど長く見えません。
しかし、距離の割にコースタイムが長い。
「ということは、かなり急なんだろうな」
とは思っていました。しかも、僕自身も下ったことがない道です。
それでも三股ルートを選んだ大きな理由が、下山後の交通でした。
利用した時点では、
三股13時30分発 → 穂高14時10分着 → 穂高14時29分発のあずさ → 新宿17時26分着
という、見事な接続があったのです。
登山口を出てから約4時間で、ほぼ生活圏まで戻れる。
「これ、最高じゃない?」
そう思い、最終的に三股へ下るルートに決めました。笑
※交通機関の時刻や運行期間は変更される可能性があります。利用する際は、必ず最新の公式情報をご確認ください。
妻3kg、僕7kg。荷物を引き受ける準備もしていた
今回は、妻の荷物が重くなりすぎないように調整しました。
- 妻:パーゴワークス20L、約3kg
- 僕:カリマー30L、約6kg

水とバッテリーは、最初から僕が二人分を持っていました。
さらに、妻に強い疲労が出たときには、すべての荷物を引き受けられるよう、僕は少し大きめのリュックを選びました。
後半の疲れが出そうなところでは、山小屋用の着替えやレインウェアなどを僕のリュックへ移しました。妻は「大丈夫」と嫌がっていましたが、そこは半ば無理やり奪い取り、軽量化を引き受けました。笑
何かあったときの準備はしていたつもりでした。
それでも、前常念から三股までの下りは想像以上でした。
荷物を軽くする準備と、その人に合ったルートを選ぶことは、同じではなかったのです。
前常念から三股へ。標高差約1,300mを一気に下る
常念岳は風が強かったものの、見晴らしは最高でした。
常念岳から前常念までは、素晴らしい岩の稜線が続きます。


ところが、前常念から先がすごかった。
最初は、足が届きにくいほど大きな岩が続く急傾斜です。

岩場が終わり、樹林帯へ入れば少し楽になるかと思いましたが、今度は木の根と、つづら折りが延々と続きます。風も通りにくい。
前常念から三股までは、標高差約1,300mを一気に下ります。
歩幅を小さくして進んでも、傾斜が急なため、適度にブレーキをかけ続けなければなりません。
一つひとつの動作が難しすぎるというよりも、同じ制御を長時間繰り返すことが、少しずつ身体に効いてきます。
感覚的には、
「長塀尾根が、さらに長くなって続いている……」
ような感じでした。
なかなか終わりません。笑
一番つらかったのは、「あとどれくらいか分からない」こと
前常念から下り始めて約1時間半。10時半を過ぎた頃、妻はまだ着かないことに、少し強く疲れを感じていました。
それまで妻と歩いた表銀座の行程では、1〜2時間ほど歩けば山小屋がありました。
山小屋は、単なる休憩場所ではありません。
「まず、あそこまで行こう」
という目標になり、一度気持ちを切り替えて、次の区間へ進むための区切りにもなります。
しかし今回は、前常念から三股まで、その区切りになる山小屋がありません。
山小屋を挟まず、標高差約1,300mの下りを続けるのは、妻にとって初めての経験でした。
下りが得意でも、その長さや途中の区切りが変われば、感じ方は変わる。僕は今回、ルートを見るときに、その人が何を経験してきたかまで考える必要があると感じました。
自衛隊の方に教わった「50分に一度休む」長距離移動の技術
今回、できる限り守ったのが、50分に一度立ち止まり、食べたり飲んだりするリズムです。
これは以前、自衛隊の方から、長距離を移動するときの技術として教えていただいたものです。日曜飛脚でも、なるべくこのルールを使うようにしています。
今回も下山が長くなる中で、足場や状況を見ながら、止まれる範囲でこのリズムを意識するように切り替えました。
今回、休憩の間隔が50分より少し長くなったときに、妻のペースが落ちたり、つまずいたりする様子が見受けられました。
そんなときは、少しでも止まり、飲んだり食べたりしてから歩き始めました。僕から見ると、休止と飲食の後は、頭がしっかりして足運びも落ち着いたように見えました。
ただし、つまずきの原因を補給不足と決めつけることはできません。地形や疲労も関わりますし、今回の観察だけでは、休んだことと飲食したこと、それぞれの影響は分けられません。
そのうえで、休憩と飲食のリズムを保つことを意識しました。50分は今回の目安であり、その時間まで休憩や飲食を待つという意味ではありません。その時の状態や、立ち止まれる場所に合わせて調整するものです。
僕にとっては、足運びを見るときに、脚の動きだけでなく、その前後の休憩や飲食にも目を向ける機会になりました。
食べているか。飲めているか。集中できているか。あとどれくらいか見通せているか。
身体の状態と心の状態は、別々ではありません。
山で問われる姿勢は、止まったときの形ではない
姿勢というと、立っているときの背中の形を想像する人が多いかもしれません。
しかし、山で求められる姿勢は、止まったときの形ではありません。
足場を判断し、重心を移し、片脚で身体を支え、次の一歩へつなげる。

前常念から三股への下りでは、この動作を、疲れた状態で長時間繰り返す必要がありました。
どこに足を置くか、どう身体を支えるか。それに加えて、休憩の前後で動きがどう変わるか。こうした変化を観察することも、山で身体の使い方を確かめる面白さだと感じています。
山は、身体の使い方をごまかせない場所です。
身体の姿勢とは、ただきれいに立つことではありません。変化する環境の中で、自分の身体を支え、状況に合わせて使い続ける力だと僕は考えています。
僕の左足首にも、身体の履歴が現れた
僕自身も、久しぶりに長い下りを歩いたことで、左足首に微妙な痛みが出ていました。
昔、靱帯を損傷した影響で、不安定な状況や長い距離が続くと、時々出てくる違和感です。
僕の場合、長い距離を歩くと、この古傷を思い出すような感覚が時々現れます。
僕はこれまで、フルマラソン、100kmマラソン、100マイルのトレイルレースなど、長時間身体を動かし続ける経験を重ねてきました。
それでも、身体がいつでも完璧なわけではありません。
自分の身体の履歴を知り、違和感が出る条件を知る。その変化を、行動を見直すための材料にする。
それも、自分の身体と長く付き合うために必要な姿勢だと考えています。
「ごめん。こんなに大変だと思っていなかった」
途中で妻に、
「ごめん。こんなに大変だと思っていなかった」
と謝りました。
このルートを決めたのは僕です。
荷物を引き受ける準備はしていましたが、長時間行動に慣れた自分の感覚を、計画に重ねすぎたのかもしれません。
毎週6km走れること、下りが得意なこと、区切りのない下りを長く経験していることは、それぞれ違います。
一緒に歩く人の経験を理解し、その人に合わせて計画を考える。今回、僕自身が見直したいと思った「心の姿勢」は、この部分です。
山を嫌いになってしまわないか少し心配しましたが、なんとか大丈夫だったようで一安心。一緒に歩き切ってくれた妻には、本当にお疲れさまでしたと伝えたいです。
12時05分に下山。三股バス停には12時30分に到着
2日目の行程を振り返ると、次のような時系列でした。
| 時刻 | 行動・様子 |
|---|---|
| 4:35 | 大天荘を出発 |
| 6:55 | 常念小屋に到着 |
| 8:15 | 常念岳 |
| 9:00 | 前常念 |
| 10:30過ぎ | 樹林帯の下りで、妻が少し強く疲れを感じ始める |
| 12:05 | 完全下山 |
| 12:30 | 三股バス停に到着 |
| 13:30 | 三股を出発 |
バス停には、出発の1時間前に到着できました。
大天荘から常念小屋までのコースタイムは3時間。今回は4時35分に出発し、6時55分に到着したので、所要時間は2時間20分。コースタイムより40分早く歩けていました。
前常念から三股バス停までのコースタイムは4時間50分。今回は9時から12時30分まで、休憩を含めて3時間30分でした。コースタイムより1時間20分早い到着です。
こうして振り返ると、妻は朝からしっかり歩いていました。10時半を過ぎて疲れを強く感じ始めた頃には、大天荘を出発してから約6時間が経っていたことも、忘れてはいけないと思います。
慣れない長い下りに戸惑いながらも、最後までしっかり歩き切った妻は、見事だったと思います。日頃から身体を動かしてきた積み重ねを感じる山行でもありました。

だからこそ次回は、歩き切れるかだけでなく、途中も楽しめる余裕まで考えてルートを選びたいです。
午後から雨の予報でしたが、実際に雨がポツポツ降り始めたのは、あずさに乗る頃でした。
三股から穂高駅、そして新宿までの接続は、期待していたとおり本当に快適でした。
交通計画は大成功。
ただし、妻と一緒に歩くルートとしては、今回は少々攻めすぎました。笑
山のルートは、距離だけを見ても分かりません。
- 標高差と傾斜
- 登りと下りの割合
- 岩や木の根などの足場
- 途中で休める場所や、気持ちを切り替えられる目標地点
- 気温や風
- 荷物の重さ
- 過去の怪我
- その人の運動習慣と登山経験
- 疲れた状態で安全に動き続けられるか
距離の割にコースタイムが長いときには、そこに時間がかかる理由があります。
今回の三股ルートには、地図上の距離だけでは見えてこない、大きな岩、急傾斜、長い樹林帯、そして「終わりが見えない」という負荷がありました。
次回はルートの候補を決めた段階で、地図やコースタイムに加え、山行記録やブログももう少し丁寧に調べようと思います。AIにも確認項目を整理してもらいながら、現地や山小屋の最新情報と照らし合わせて計画を見直したいです。
























山を長く楽しむために、身体と心の姿勢を整える
登山で膝や腰、足首がつらくなると、「筋力が足りないから、もっと鍛えなければ」と考えがちです。
もちろん、筋力や持久力は必要です。
しかし、それだけではありません。
なぜ、その場所に負担が集中したのか。
疲れてきたとき、身体の使い方はどう変わったのか。
補給や休憩のリズムが崩れたとき、集中力や足運びにどんな変化が現れたのか。
過去の怪我が、現在の動きにどう影響しているのか。
痛む場所だけを見るのではなく、身体の構造、使い方、行動の条件まで含めて考える。
身体を整えるだけでなく、その身体を山の中でどう使うかまで身につけていく。
それが、姿勢治療家®として山を歩く僕の視点です。
山は、身体の現在地を教えてくれます。
同時に、自分の判断や、一緒に歩く人への向き合い方まで映し出してくれます。
身体の姿勢と、心の姿勢。
その両方を学ばせてもらった今回の山行でした。
またひとつ、北アルプスからの素晴らしい帰路を覚えました。
次回、妻と行くときは、もう少し優しいルートにします。笑
姿勢が変わると、人生が変わる。
姿勢治療家® 仲野孝明

仲野孝明(なかの たかあき)
姿勢治療家®創設者/仲野整體東京青山院長/柔道整復師
「姿勢が変わると、人生が変わる。」
1926年創業の仲野整體の四代目。日々の臨床で身体の使い方を探究する。自身も走れなかったところから2011年に走り始め、砂漠マラソンや330kmの山岳レースを完走。臨床と自らの実践で得た学びを、誰もが暮らしや仕事に取り入れられる方法へと磨き続けている。
著書7冊。代表作『調子いい! がずっとつづく カラダの使い方』。企業の健康経営を支える講演や、執筆・動画・音声配信を通じて、身体の使い方から人生の選択肢を広げることを伝えている。

















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