2025-10-10

涸沢ピストン(往復)|雨での“姿勢と適応力”の山旅

今回の山行は、妻との二人旅でした。
天気予報は「曇り、霧雨、ときどき晴れ」。どんな天候になるか分からない状況でしたが、「行ってみないとわからない」と思い、上高地へ向かいました。

2週間ほど前、偶然キャンセルが出て、上高地行きのバスに2席だけ空きがありました。
「天気が悪ければやめよう」と話していましたが、結果的にそのまま決行。
朝6時に現地へ到着すると、うっすら曇り空に時折パラパラと雨。
とりあえずレインウェアを着込み、歩き始めました。


出発前の準備

出発前夜。
あれこれ足したり引いたりしながら、結果的にザックの重さはトータル10kgに落ち着きました。
「使うかもしれない」と思うと荷物は増えてしまうもの。
それをギリギリまで悩む時間も、ある意味“前夜祭”の楽しみです。
一方の妻は、あっさりとパッキング完了。
荷物が少ない分、判断が早い。


私は30L、妻は20L。軽いはずなのに、背負うとずっしりと重みを感じます。
そんなザックを抱えて、夜行バスへと向かいました。

トラベルピローの実験

長時間の移動で首を痛めやすい妻のために、今回はトラベルピローを導入しました。
使ったのは、SEA TO SUMMIT_「エアロプレミアムピロー トラベラー」
重さは85gと、決して軽くはありません。
ただ、空気を入れて調整できるため、首をしっかり支えてくれる安定感があります。
カバーは外して、中身だけをジップロックに。
耳栓とアイマスクと一緒にセットにして持参しました。

首と睡眠の質を守る小さな装備。
決して楽ではない夜行バスの時間を、快適な移動に変えてくれる。
「最高に良かった!」とのことでした。

荷物10kg、今回は“走らない装備”で

今回はテン泊を想定していたため、テント・シュラフ・防寒具などの荷物はすべて私が担当。
総重量は約10kg。走るというより、“運ぶ旅”をイメージしていました。


靴は、山では初めて使う ALTRA Olympus 5 Hike Mid GORE-TEX(528g)
防水性を重視して選んだもので、普段はバイク用の靴として活躍しています。
登山靴としての実力を試す、ちょうどいい機会になりました。


朝は霧雨のスタート。

河童橋も人はまばらで、穂高はすっかり雲の中でした。笑
「このまま穏やかに進めたらありがたいな」と思いつつ歩き始めます。

途中で雲の切れ間から青空がのぞき、「これはいけるかも」と期待。
徳沢を目指して足を進めました。

しかし、横尾に着く頃には再び雨。
上下レインウェアを着直し、ここから本格的な登りへと入っていきます。

小さな違和感が、次の学びになります。
この日の装備で気づいたのは、Olympus 5 Hike と Arc’teryx のレインノーバンの相性問題
細身のレインパンツの裾はローカットモデルを想定しているため、
ハイカットのブーツでは少し収まりが悪く、裾が浮いてしまいました。

「装備の組み合わせ」も実践して初めてわかるものですね。
それでも雨に降られずに横尾まで無事到着。

ちょうど横尾では、北アルプストレイルプログラムが実施されていました。
装備チェックや登山届の確認など、しっかりとした体制。
いずれは富士山のように、有料化される日が来るのかもしれませんね。

ゆっくり、確実に。妻との登り

横尾から涸沢カールまでは、ゆったりとした登り。
妻は登りが少し苦手なので、今回は“急がず、コースタイム通りに”を意識しました。
ご年配の方や、対面から降ってくる登山者も多く、穏やかな時間が流れます。

雨は小雨から始まり、徐々に強さを増していきました。
それでも、紅葉の色づきは見事。
「大雨だけど、紅葉はまずまず綺麗!」
そんな会話をしながら、少しずつ高度を上げていきます。


後半になると、風が強まり、雨脚も次第に激しく。
涸沢ヒュッテに着く頃には、全身びしょ濡れでした。

冷え切った体を温めるために、ヒュッテでカレーライスとおでんを注文。
そして、私はお決まりのビールを一杯。

強風と雨。写真では伝わりにくいほどの荒天でした。

「この状況で生ビール飲めるのはやばいね」と驚かれましたが、
妻は寒さでそれどころではなかったようです。
今年2度目の涸沢カール。
できればテントを張りたかったのですが、
この雨と寒さでは体調を崩すリスクが高いと判断し、撤退を決めました。
動画はこちら(YouTubeショート)👇
📹 https://youtube.com/shorts/0RwsJz7PgXQ?si=wYWOTECvWvQlJigb


この雨では仕方ありませんね。
トレランリュックをレインウェアの中に入れていましたが、
それでもすべて濡れてしまいました。
装備の限界と自然の力を同時に体験した時間。

山はいつも、「準備と判断」を教えてくれます。

数時間で変わる、山の表情

下山を始めて驚いたのは、たった数時間で山の様子がまるで別世界のように変わっていたことでした。
登りでは穏やかだった川の流れが、帰りには水量を大きく増し、
ところどころ“川の中を歩いている”ような感覚になるほど。
ほんの数時間、同じ山の中にいただけで、ここまで環境が変わる。
自然の力の大きさを改めて思い知らされました。

本谷橋を通過したのは午後2時。
朝10時には静かに流れていた水が、わずか4時間で濁流のように勢いを増していました。
数時間でここまで変わる——まさに自然のダイナミズム。
息をのむ光景でした。
朝の穏やかな流れが、一気に濁流に。自然の変化は一瞬です。

道のあちこちが川のようになり、
靴の中まで冷たい水が流れ込んでくる。
それでも、水の力を肌で感じながら下る時間は、不思議と心地よさもありました。

道が、川になる。自然と一体になる瞬間。

下山途中、屏風岩の滝が姿を現しました。
この景色を、いつか妻に見せたいと思っていたので、
今回ようやく一緒に見ることができたのは本当に嬉しかったです。
写真では伝わりきらない。
目の前で感じる風、音、湿度——それこそが山の醍醐味ですね。
雨で水量を増した屏風岩の滝。迫力は写真の何倍も。

予定変更、そして“下山ラン”へ

下山を始めた頃、私は「今夜は横尾でテントか、徳沢でテントか」と考えていました。
ところが妻が一言。

「今日、松本に戻る方法ってないの?」

一瞬、頭の中が切り替わりました。
上高地から新宿・渋谷方面へのバスは16時台にあることは知っていましたが、
上高地から新島々までの最終バス時刻は記憶にありません。

慌てて調べると、最終は 17時30分ごろ発
涸沢カール出発が 12:40、横尾到着が 14:40
コースタイムでは横尾から上高地まで 約3時間10分
計算すると、到着は 17時50分——つまり間に合わない。

「これは少し走らないと無理だな」と判断し、
横尾から“下山ラン”に切り替えました。




徳沢到着は 15時15分
わずか35分で到着できたことで、
「このペースなら間に合う」と確信。

それでも、バス乗車前に着替える時間がほしかったので、
残りは“レースモード”ではなく、ゆっくりランモードで上高地を目指しました。

まるでステージレースの最終区間を走っているような感覚。
雨を浴びながら、荷物10kgのまま全力で駆け抜けました。

結果、横尾から1時間50分で上高地バスターミナルに到着(16:30)
河童橋付近の水量は朝とは比べものにならず、
濁流が橋脚のすぐ下を流れていました。


17時15分のバスに無事乗車。
松本に出て、最終の「あずさ」で東京へ。
長い一日がようやく終わりました。
この荷物なかなかの重さでした。

「まさか今日中に東京に戻れるとはね」と妻。
まるでひとつの山岳レースを走り切ったような一日でした。

装備レビュー|体を支える道具たち

今回の山行では、いくつかの新しい装備を試しました。
どれも「体の姿勢をどう支えるか」を確かめる良い機会になりました。


トラベルピロー(首枕)

前回の山行で、妻が移動中に「首が辛い」「寒い」と話していたことから、
今回は最も評価の高いトラベルピローを導入しました。


結果は大正解。
長距離移動でも首への負担が軽減し、睡眠の質が大幅に向上。
小さな快適さの積み重ねが、登山でのエネルギーを左右すると実感しました。

首を支えることで、背骨に余分な負担をかけずに休める。
つまり、移動中から「体の使い方」を意識できる装備でもあります。
妻いわく「これがあるだけで、夜行バスがまったく違う」とのこと。


私はもともと首に負担がかかりにくいタイプなので、今回は使用せず。
それでも、体格や筋緊張の違いで“必要な装備”が変わるという発見がありました。


ファイントラックのザックカバー(試作品)

今回使用したのは、ファイントラックさんからいただいた試作品のザックカバー
普段よりひと回り大きい10kgのザックで試したところ、
長時間の大雨では内部にうっすら湿り気が出てくることが分かりました。

「カバーよりも、パッキング全体の防水設計が重要」
——今回の山行で得た大きな気づきです。

写真では分かりにくいのですが、実際は中までじんわり浸透。
首の後ろあたりから雨が伝って荷物に入り込んでいる可能性がありました。

できるだけ荷物は防水バッグに入れていましたが、
やっぱり濡れると少し寂しい気持ちになりますね。
ザックカバー初心者なので、もしかしたら装着の仕方にも問題があったのかもしれません(笑)。
今後は完全防水タイプのリュックも検討してみたいと思います。



ALTRA Olympus 5 Hike Mid GORE-TEX

528gのミッドカットモデル。
普段履いているトレランシューズ、**ALTRA Olympus 6(345g)**よりは重いものの、
防水性と安定感のバランスが非常に良く、想像以上に快適でした。

紐の締め具合を調整すると、足首の安定が格段にアップ。
荷重がかかる場面でも“姿勢の軸”がぶれず、
体幹から足先まで一体化して動ける感覚がありました。

写真はALTRA公式サイトより引用)
528gの安定。
ミッドカットを山で使うのは今回が初めてでしたが、
実際は意外と走れてしまい、横ブレにも強く捻挫しにくい印象でした。

もう少し年齢を重ね、バランスへの不安が増えてきたら、
ミッドカットの比率が自然と増えていくような気がします。
今回は“まさかのミッドカットで涸沢ピストン”。
結果的には、良い練習と発見の山行になりました。



想定外の“30kmトレイル”

妻にとっては、人生初の30km越えトレイルとなりました。
増水した登山道を走りながら下るのは、相当な負荷だったはずですが、
本人いわく「アドベンチャー感があって楽しかった」とのこと。

ただ、あのまま涸沢でテント泊をしていたら、
「寒すぎて危なかったかも」と後で話していました。
判断を変える勇気も、山では大切な力です。

それにしても、人間の身体の適応力には驚かされます。
毎週続けている6kmの水曜飛脚の積み重ねで、
山手線一周を走れるようになっただけでなく、
まさかトレイルを数回経験しただけで、
30kmの山道を走り切ってしまうとは思いませんでした。

継続の力は、思っている以上に身体を変える。
人間の体は、やっぱりすごい。


姿勢治療家としての発見

今回の山行は、私にとっても思わぬ体幹トレーニングになりました。
10kgの荷物を背負いながら姿勢を保ち、滑る岩場を下る。
体幹が安定していると、動きが軽くなり、バランスの取り直しも最小限で済む。

テント装備を背負ったまま、ミドルカットのブーツで走るとは思ってもいませんでしたが、
やってみると意外に動ける。
姿勢の力、そして人間本来の體(カラダ)のすごさを、改めて実感しました。

帰宅後に荷物を体重計で測ると、まさかの 11kg
どうりで脚に効くはずです(笑)。

終わりに

霧雨に始まり、強風・豪雨を経て、最後は走って帰る。
予定通りにはいかないけれど、山はいつも体と対話する絶好の場です。

自然の力と、人の適応力。
その両方を全身で味わえた、濃い一日でした。

上り:6時間2分
下り:3時間48分
今回も、貴重な学びに満ちた山行になりました。


P.S.

土砂降りの中でのキャンプ対策は、まだまだ課題が残りました。
これからは濡れない装備と防水設計の研究を進め、
悪天候でも快適に過ごせる“姿勢治療家流キャンプ術”を探っていきたいと思います。

次は、どんな天候が待っているのでしょうか。
山はいつも、次の実験の場を用意してくれます。


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